1球がもたらすものコンテスト2021 総評 真空管の部

最新改定 2021.Jun.13 1球がもたらすものコンテスト事務局

< 真空管の部 >

  評価者: 大脇 伸太郎(JA3EGW)、石山 保幸(JA3TZZ) 真空管1球構成作品
  評価者: 矢澤 豊次郎(JA2AGP)、望月 辰巳(JH2CLZ) 複数真空管構成作品


■ 作品番号:T01

1)技術
レアな複合管(6R-HV1:6BA6+6AV6) を使用され、中波帯HiFiチューナーを製作
検波段にGe-ダイオード を用い、音質重視、出力もライン出力、イヤホン出力とされています。
外来ノイズ、ハム音に関してはアクロス・ザ・ラインコンデンサー、
整流器にコンデンサーを並列接続、平滑回路にチョークコイルを配置し、
高周波段では、アンテナコイルと検波コイル、シールド、結合には十分な配慮が伺えます。
アンテナ&検波コイルは、紙筒にエナメル線を丁寧に手巻きされています。
検波段プレート負荷コイルに古い真空管式テープレコーダーのバイアス発振コイル巻線を調整し、
同調コイルとの結合度調整するアイディアは素晴らしいです。
チューニングの減速機構は、ベルト方式です。今となっては斬新です。

2)趣意
中波帯HiFiチュ−ナ−として、音のよいと言われている高一受信機に着目され、
入手された少しレアな複合管6RHV1 で構成されています。
組み込みシャーシはMDFボードにアルミ板を折り曲げ加工され平面構成とされています。
1950〜1960年代、日本で中波ラジオ局2波によるAMステレオが行われ、一部マニアの間では、
5級スーパーラジオより音質が良いとされる「高1ラジオ/チューナー」がもてはやされました。
また、当時の真空管ラジオのダイアルは、糸掛け式が主流でした。
アンテナ側同調回路にダンピング抵抗(本機では100ΩVR)を入れることも当時の定番回路であること、
税金対策として球数を減らすために開発された6R-HV1という複合管の採用など、
本機は全体として往時のラジオへの思い入れ(ノスタルジー)が強く反映されています。

3)意匠
最終完成には至っていないですが平面に構成され、フラットな構成で好感が持てます。
筐体はこれからでしょうが、チューニングダイアル部分にパイロットランプが有り、
照明を電球でされるのはノスタルジーのこだわりを感じます。
前回2019年の製作品では、水性工芸漆を用いられていました。
前回同様デザイン性への配慮が伺えます。

4)その他
少年の頃からの思い描いていた高一 HiFiチューナーに挑戦できたのはよかったです。
業務が繁忙を極める中、時間を割いて取り組まれている姿に感動です。
検波段プレート負荷コイルに古い真空管式テープレコーダーのバイアス発振コイル巻線を調整して用い、
同調コイルとの結合度調整するアイディアは素晴らしいです。
最終完成形には至っていませんが、今後のブラッシュアップ(筐体、AVC、帯域幅等)、
目標の高音質受信に期待致します。


■ 作品番号:T02

1)技術
 6BD11 コンパクトロン( 5極管+ 3極管 + 3極管 )を用い、米国 National 社 SW-3 を
 1 球で再現すべく挑戦されています。手持ちの SW-3 のプラグインコイルを使用、
0.5MHz〜30MHz 8バンドをプラグインコイル差し替えで実現されています。
ジェネラルカバーとバンドスプレッドの切り替えは、コイルの差し替えとともに、
真空管 の G1 接続をリレーにより切り替える構成で、最短距離の配線で対応されています。
高周波1段(5極)、再生(3極)、低周波増幅は1:3段間トランスを用い(3極)部でなされています。
真空管部分の配線は、プリント基板銅箔部分ベタ箔を用い、共通インピーダンスを下げ、
シールド効果を活用、回路間の干渉を排した構成です。
プラグインコイルを切り替えると再生帰還量が大きく変化するため、
バリコンで変化させる方式とプレート電圧調整よる利得調整を併用して安定した再生を実現されています。
卓越した経験、技術力が伺えます。

2)趣意
当初の制作意図である USA National SW-3 のプラグインコイルを用い、SW-3が
3球の真空管で構成されているのをコンパクトロン1球で構成しています。
全て手持ち部品を活用して製作されているのは過去からの貴重な資産活用です。
オールウェーブAM受信機としての完成度は素晴らしいです。

3)意匠
 USA National SW-3のデザインを彷彿させるシンプルな構成です。
大きいバーニアダイアルと、モノトーンでまとめたデザインが、
ビンテージ受信機そのもので、作者の拘りが強く感じられます。
 上蓋を開けることにより、コイルの差し替えができる構成です。

4)その他
 真空管時代の受信機と並べると何ら遜色ない素晴らしいデザイン、仕上がりです。
「5極・3極・3極」複合管である6BD11の各ユニットに高周波増幅・再生検波・低周波増幅と
一つの機能を割り当てたことにより、オーソドックスな設計を可能にし、
各部の最大のパフォーマンスと安定度を得ています。
 これにより、「単球で、プラグインコイル式1V1再生検波受信機SW-3を再現する」
という製作意図が見事に実現されています。


■ 作品番号:T04

1)技術
 複合管5GH8A x 1 (3/5 極 MT管) を用い、アマチュア無線短波帯2バンド再生受信機
(3.5MHz/7MHz)を、シンプルな回路構成(0−V−1)で構成されています。
特筆すべきは、測定器筐体を用い、シールドBOX、2重シールド構造、機能的なレイアウト構成、
インピーダンスを考慮した構成で、ボディーエフェクト、迷結合の対策等を行い、
パネル面はオリジナルで素晴らしい選局ダイアルとなっています。
バンド切り替えには小型リレーを用い、最短最適配線距離で行う、
真空管ヒーターは、DC印加点灯でハム音対策なされています。

2)趣意
シンプルな回路構成で、飽きないように構成、感度が良くアマチュア無線が聞ける
デザイン性を追求したラジオを製作されています。
  再生式受信機は、CW/SSBが受信できるので、国内交信をワッチしたり
、自局の信号をモニタするのにも使えそうです。

3)意匠
 計測器の様な斬新なパネルです。デザインは奥様のサポートもあったとのことですが
素晴らしい一言です。
 本機は、トリオ(現ケンウッド)製低周波オシレータAG-202Aのケース及びダイアルを
そのまま流用していますので、測定器然としたパネルデザインを踏襲していますが、
全体を白と黒を基調として、
ポップでセンス溢れるパネル表示の白文字など、自作の楽しさを具現しています。

4)その他
 スペースに制約ある中での製作で有り、やり直したいところ、
目標の仕様等明確になっていますので更なるブラッシュアップ、性能向上を期待しています。


■ 作品番号:T06

1)技術
ST双三極複合管 (UZ-79) 一本でスピーカを鳴らすラジオの製作で、
一方でレフレックス再生検波、他方で低周波増幅し、スピーカーを駆動。
結合は段間低周波トランス(3:1でしょうか?)を使用しています。
この複合管はカソード共通となっており、扱いには苦労されたと思います。
電源トランスと段間トランスの電磁結合によるハム対策、配置には試行錯誤なされています。
AF段結合に近頃は少なくなった段間トランスを用いられているのは幅広い知識・経験からと思います。
在京6局を十分な音量で受信されていますので、感度・音量は十分でしょう。

2)趣意
ST管1本でスピーカを鳴らせるラジオに再挑戦。前回未達のため再挑戦。
予備実験の 6C6、6D6 単球再生検波では十分な性能が得られず、
双三極管 79 を使って製作され目標の動作を実現されています。

3)意匠
アルミシャーシを本体に用い、出力トランスとスピーカを収めたスピーカボッ クスと分割しています。
アルミシャーシは懐かしい、真空管ラジオ少年時代の構成です。内部写真がないのが残念です。
アンテナコイル、スター並4コイルから自作バーアンテナに変更、
回路・配置も組み立て実験しながら検討さています。

4)その他
再生受信機は奥が深く、またアナログ技術で、難しい反面いろいろ楽しめます。
今後の挑戦に期待します。工具類もいろいろ揃えられ意気込みが伝わってきます。
周波数範囲 540kHz-1420kHz ですので、受信周波数範囲が規定を少し外れています。
調整可能とは思われます。
工具類も新たに取りそろえられ、意気込みが伝わります。
  UZ-79という、双3極ST管でゼロバイアスB級PP用出力管という、
極めてレアな珍球をいかに使いこなすか、というのが本機の一番の肝です。
ゼロバイアスB級用の79を、A級で使うにはグリッドバイアスを使えば小信号増幅用には使えると
RCAの規格表には出ているが、どの程度のバイアスを与えるのか
製作者はカット&トライで苦労されたと思います。
ダイオード検波の直流分がプラス方向にグリッドに加わるので、
それがこの球の場合どのように作用したのか興味あるところです。
製作者のチャレンジ精神に「超イイね!」を贈ります。


■ 作品番号:T31

1)技術
かっては軍用無線機の主要真空管として使用され、オールドタイマーには昔を思い起こさせる
メタル管6SA7・6AG7・6SQ7を使用され、スーパーレフレックス受信機を製作されています。
レフレックス構成は、6SQ7で検波及び低周波増幅した後、6SG7を使用した中間周波増幅段を
低周波増幅段と共用しています。このステージに大出力と高Gmの6SG7を使用することによって
目的を達成しています。また高Gmのための安定増幅対策として中和をとっており、作者のこだ
わりが感じられます。

2)趣意
整然と配置されたバリコン、IFT、真空管、ブロックコンなど、作者の気質がうかがわれます。
また配線も発振回路にパイプシールドを使用するなど、細かい配慮がなされています。

3)意匠
PWダイヤルは今回で2度目の登場で、作者のお気に入りのご様子です。ダイヤルをパネルの
左側に配置されているのは、ダイヤルを左手で操作する構造でオールドタイマー仕様ですね。
Sメーターも正規なSメーターを使用されるなどこだわりが感じられ、随所の工夫が素晴らしい
です。


■ 作品番号:T32

1)技術
MT管5750(6BE6高信頼度管)・6AU6・6AR5で構成された、2バンドスーパー再生受信機です。
周波数変換に変換利得の大きい5750を使用して利得を稼ぎ、局部発振を水晶発振使用し安定度を確保
しています。
受信機の周波数構成は、水晶発振に5.25MHz、中間周波段を1.55〜1.95MHzを設定することにより、
受信機入力同調周波数を6.8MHz〜7.2MHzまたは3.3MHz〜3.7MHzに替えるだけで、2つのアマチュア
バンドをカバーしています。ヘテロダインが差分と和分になるためにダイヤル表示周波数の増減は反転
しますが、コリンズでも同じような構成のものがあります。
再生検波回路構成では、6AU6のSG電圧を変化させて再生調整をしていますが、検波段の増幅度と帰還量
との最適値を得るために、カソードの抵抗値を調整して再生検波段の最適動作を求めています。
また、混合段と再生検波段の回路動作安定のために、ヒーター回路にバラストを入れて安定化すると同時に
再生回路のSG電圧部にツェナーダイオードを使用して安定化を図っています。
特に注目は混合段と再生検波段の結合です。一般的にはM結合で接続しますが、ここでは3PFの容量結合を
行っています。このことで受信感度が大幅に向上するとのことです。

2)趣意
過去に出品された作品もさりながら、今回のμ同調機構のドリルの刃を使った工夫と加工の面白さと精緻
さは、作者ならではの加工技術とアイデアの高さを感じます。またシャーシー全体のレイアウト、ダイヤル
機構等々まさに素晴らしいの一言です。

3)意匠
毎回のことながら、パネルのチジミ風塗装、スピーカーのダストカバー、各ツマミの示名条片、把手、パネル
レイアウト、ダイヤル機構、細部は皿ネジを使用などの精緻さは素晴らしく、まさに脱帽です。


■ 作品番号:T33

1)技術
 MT管12BE6・12AV6・50C5で構成された中波帯モノバンドスーパーヘテロダインのトランスレス受信機です。
地元放送局を安定に受信できることを目的としたシンプルな構成となっています。
 ことにトランスレス構成であるための電撃ショックの防止対策としてネオン管による警告表示を装備
するなど、丁寧な設計をされています。
 
2)趣意
シンプルな回路構成で、極めて標準的な部品を使用したラジオを製作されています。まさにきっと受信機の
サンプルのようなラジオです。
 
3)意匠
作品のシンプルさが素晴らしいです。このままキットとして配布出来そうな造りと構成で、自作の楽しさを
味わえそうな感じです。


その他 リタイアされた作品

■ 作品番号:T03

残念ながら製作途中にリタイアされました。
Nutube 新しい真空管をどのように使用なされるか興味津々でした。
FM超再生、高周波増幅・検波段に使用した例は知る限り見かけません。
次回リベンジに期待致します。

■ 作品番号:T05

残念ながら途中リタイアされました。次回に期待致します。

■ 作品番号:T34
3球スーパーヘテロダイン受信機作成予定でしたが時間切れで途中リタイアされました。次回に期待致します。


● 評価者からの一言

【大脇】

 「ひと球コンテスト」も4回目となり、今回も強者揃いの参加です。
それぞれに独創的で、設計技術、製作技術の高さにいつも感心させられます。
 第1回目の究極の1球ラジオから、今回は複合管1本、又は、単機能真空管3本までの使用が認められたため、
各者各様のバラエティに富んだ作品になっています。
 製作意図や求めるものが違うので、画一的な評価に馴染まず、真空管を愛する同好者の一人としての共感や羨望、
そしてかって自分も辿ってきた道を思い出しながら総評させていただきました。(JA3EGW 大脇伸太郎)

【石山】

 『ひと球』全体的な流れを見ますと回を重ねるにつれ、その時の制約の中で知識・経験をフルに活用され、
ジャンク箱の中から部品を探し、有効活用されて製作されているのはラジオ少年ならではです。
今回は、複合管1本 または 単機能真空管3本までと幅広い選択となっており、
各人思い入れのある素晴らしい作品に仕上がっています。
各コンペを眺めて来られた未参加者への刺激になり次回はいっそう盛り上り楽しいコンテストになればと思っています。

【矢澤】

 ひと球コンテストも4回目を迎えました。参加者は少なくなりましたが、参加された皆様のご支援と
ご努力により、多くの作品が集まりました。
 出品作品にはそれぞれの個性があり、製作加工技術、性能の探求、意匠など、お人柄が偲ばれる
素晴らしいものばかりでした。
私感としては、年を経過する毎にコンペ内容も改定して開催してきましたが、開催当初のワクワク感が
薄れて来たように感じます。今後開催されるときには、さらに新たな工夫も必要かと感じております。
 主催者側代表として、これまで参加された皆様、事務局、総評者の皆様のご尽力に改めて厚く御礼申
し上げます。有難うございました。

【望月】

  毎年この時期が楽しみでした。多忙な日が続き製作に充てる時間が確保できず途中棄権させて頂きましたが、評価を
担当させて戴きました。
 今回も、それぞれに特徴のある作品が出展され興味津々で拝見させて頂きました。コンペと言うより、もの作りに対する
製作者スタンスがモロに伝わってくる思いです。開始から毎年出展されて来られた方の作品には、回路や工作が実に巧妙で
、そのままKit化出来そうな作品も有ります。また一方、初めてラジオを作った頃をほうふつとさせる、アルミシャシ上で
勝負する作品もあって、一喜一憂した少年時代に思いが馳せます。出展者の報告を見ていると、どれ位の感度で鳴るんだろ
うと悪い癖が出て来ます。そうです、例えば同じS/Nを得るためにどれ位の入力レベルが必要なんだろうかと・・・。2回目
以降はこのテーマに直接触れて来ませんでしたが、実に興味のあるところだと思います。


以上です