アンテナローディング学習のための伝送線路モデルの検討         最新改定 2024. Jan.05 JH3FJA

 容量冠やローディングコイルの付加によるアンテナ共振固有値の変化やそのメカニズムについて汎用的な電子回路シミュレータを用い伝送線路モデルでアンテナを表現することで伝搬遅延を軸に理解がし易い説明手段に成りえるか 検討してみたものです。
 ここでは例として半波長水平ダイポールの半分 四分の一長さの架空線スタイル(単線と大地)の伝送線路として眺め 受端開放線路上の伝搬遅延波の可視化を狙った分布定数系モデルとします。
 なお、誤解のないよう付記しておくと、検討の「線路遅延起源の説明手段」を使ってアンテナシミュレータに匹敵する詳細な設計を行おうと言うものではなく、とかく複雑な定在波アンテナにおけるローディング動作が解かり易いものにならないかを意図したものです。

伝送線路モデルの記述方法 適用例題1 キャパシタンスローディング 適用例題2 インダクタンスローディング

伝送線路モデルの記述方法
 いずれにせよツールは回路シミュレータですが、分布定数化した伝送路の記述方法として「LCによる多段遅延回路」の作成 および 回路シミュレータの持つ「汎用線路モジュール(*1)」起用の2つがあり 選択のため 同条件で眺めました。 □内はAまたはB

 *1 SPICE系電子回路シミュレータには無損失伝送線路モデル と 損失まで扱える4定数モデルの2種類の伝送線路コンポーネント(機能演算モジュール)が用意されています。 前者 TLINE では線路の特性インピーダンスと遅延時間を、後者 LTLINE では分布定数モデルの4定数(線路インダクタンス、線間キャパシタンス、往復線路抵抗、線間コンダクタンス)と伝送線路長を設定することで簡易あるいは詳細に伝送線路が扱えますが ここではシンプルに無損失伝送モデルを対象としました。

 ケース □1 では伝送線路の特性インピーダンスに整合させた状態で線路上の各点での遅延特性を観察
 ケース □2 ではケース □1とは異なる信号周波数で同様に観察
 ケース □3 では終端開放の空中線想定での共振固有値可視化の程度を観察
 ケース □4 では信号源波形を矩形波とし進行波・反射波の可視化の程度を観察
 ケース □5 では信号源側整合を採りシンプル化した進行・反射波を観察

ケース 線路モデル化 条件 信号源 終端 備考
A1 多段LC遅延 整合伝播(7MHz) 607オーム 607オーム
A2 多段LC遅延 整合伝播(21MHz) 607オーム 607オーム
A3 多段LC遅延 不整合伝播 共振固有値 37オーム 開放
A4 多段LC遅延 不整合伝播 反射の可視化 37オーム 開放  矩形波信号源
A5 多段LC遅延 不整合伝播 反射の可視化 600オーム 開放  矩形波信号源
B1 機能演算モジュール 整合伝播(7MHz) 600オーム 600オーム
B2 機能演算モジュール 整合伝播(21MHz) 600オーム 600オーム
B3 機能演算モジュール 不整合伝播 共振固有値 37オーム 開放
B4 機能演算モジュール 不整合伝播 反射の可視化 37オーム 開放  矩形波信号源
B5 機能演算モジュール 不整合伝播 反射の可視化 600オーム 開放  矩形波信号源

 結果: 回路シミュレータの汎用機能演算モジュール(伝送線路コンポーネント)によるモデル記述に軍配があがります。 以下に各条件での回路モデルと応答波形および寸評を掲げます。 かなり沢山ありますので先を急ぐ場合は ここクリックでジャンプ

<伝送路多段LC遅延モデルでの特性確認>

ケース A1 多段LC遅延/整合伝播(7MHz)/信号源インピーダンス 607オーム,終端抵抗 607オーム
 この四分の一波長20段遅延では厳密な一様振幅に難あり中間位置で最大2%程振幅が低下している。遅延時間の一様性は問題ない。

ケース A2 多段LC遅延/整合伝播(21MHz)/信号源インピーダンス 607オーム,終端抵抗 607オーム
 信号周波数が3倍となり四分の一波長あたり3段遅延となり一様振幅からは大きく外れる。

ケース A3 多段LC遅延/不整合伝播 共振固有値/信号源インピーダンス 37オーム,終端開放
 進行波と反射波の重畳打消しを共振固有値として観察し易い。

ケース A4 多段LC遅延/不整合伝播 反射の可視化/信号源インピーダンス 37オーム,終端開放
 進行波・開放端での反射・反射波・信号源側での反射の観察は出来るが細かな乱れがある。

ケース A5 多段LC遅延/不整合伝播 反射の可視化/信号源インピーダンス 600オーム,終端開放
 進行波・開放端での反射・反射波の観察は出来るが細かな乱れがある。

<伝送路汎用機能演算モジュールでの特性>

ケース B1 機能演算モジュール/整合伝播(7MHz)/信号源インピーダンス 607オーム,終端抵抗 607オーム
 極めて綺麗な線路上一様振幅、一様遅延の様子が観察できる。

ケース B2 機能演算モジュール/整合伝播(21MHz)/信号源インピーダンス 607オーム,終端抵抗 607オーム
 極めて綺麗な線路上一様振幅、一様遅延の様子が観察できる。

ケース B3 機能演算モジュール/不整合伝播 共振固有値/信号源インピーダンス 37オーム,終端開放
 進行波と反射波の重畳打消しを共振固有値として観察し易い。

ケース B4 機能演算モジュール/不整合伝播 反射の可視化/信号源インピーダンス 37オーム,終端開放
 進行波・開放端での反射・反射波・信号源側での反射の観察が容易に出来る。

ケース B5 機能演算モジュール/不整合伝播 反射の可視化/信号源インピーダンス 600オーム,終端開放
 進行波・開放端での反射・反射波の観察が容易に出来る。

適用例題1 キャパシタンスローディング
 1つ目の説明例題は キャパシタンスローディング、架空線と大地との間に並列に入る容量冠等による共振固有値下げです。
ケース 付加要素 付加位置 着目 備考
C1aC1b キャパシタンス 開放端 伝搬遅延/共振固有値
C2aC2b キャパシタンス 中間位置 伝搬遅延/共振固有値

ケース C1a: 開放端にキャパシタンスを付加 遅延の変化
 上段波形群は付加しない状態(Ca=0PF)
  給電点から終端までの往復遅延 199.8-128.1=71.7ns、相当共振周波数にして 1/(71.7ns×2)=6.97MHz
 下段波形群はキャパシタンス(Ca=2PF)を付加した状態
  給電点から終端までの往復遅延 206.5-128.1=78.4ns、相当共振周波数にして 1/(78.4ns×2)=6.38MHz

ケース C1b: 開放端にキャパシタンスを付加 共振固有値の変化
 上段波形群は付加しない状態(Ca=0PF)、共振固有値 7.085MHz
 下段波形群はキャパシタンス(Ca=5PF)を付加した状態、共振固有値 6.518MHz

ケース C2a: 中間位置にキャパシタンスを付加 遅延の変化
 付加する位置は4m点(ノード名o4)、ここは7MHzの3倍 21MHz(波長15m、1/4波長1.25m)では定在波電圧の腹にあたります。
 上段波形群は付加しない状態(Ca=0PF)
  給電点から終端までの往復遅延 199.8-128.1=71.7ns、相当共振周波数にして 1/(71.7×2)=6.97MHz
 下段波形群はキャパシタンス(Ca=2PF)を付加した状態
  給電点から終端までの往復遅延 200.0-128.1=71.9ns、相当共振周波数にして 1/(71.9×2)=6.95MHz

ケース C2b: 中間位置にキャパシタンスを付加 共振固有値の変化
 上段波形群は付加しない状態(Ca=0PF)、共振固有値 7.075MHz、21.244MHz
 下段波形群はキャパシタンス(Ca=2PF)を付加した状態、共振固有値 7.026MHz、20.54MHz
 4m点(ノード名o4)は21MHzに対して定在波電圧の腹に近く変化が大きい。7MHzに対してはその節に近いので変化が少ないのがわかる。

適用例題2 インダクタンスローディング
 2つ目の説明例題は インダクタンスロード、架空線に直列に入るローディングコイルによる共振固有値下げです。
ケース 付加要素 付加位置 着目 備考
L1aL1b インダクタンス 給電点近傍 伝搬遅延/共振固有値

ケース L1a: 給電点近くにインダクタンスを付加 遅延の変化
 上段波形群はインダクタンスを付加しない状態
  給電点から終端までの往復遅延 98.58-28.02=70.56ns、相当共振周波数にして 1/(70.56×2)=7.086MHz
 下段波形群はインダクタンス(La=2uH)を付加した状態
  給電点から終端までの往復遅延 104.9-28.02=78.4ns、相当共振周波数にして 1/(76.88×2)=6.504MHz

ケース L1b: 給電点近くににインダクタンスを付加 共振固有値の変化
 上段波形群はインダクタンスを付加しない状態、共振固有値 7.075MHz
 下段波形群はインダクタンス(La=2uH)を付加した状態、共振固有値 6.510MHz

END

改定来歴:  2024.Jan.05 作成