ループアンテナだけで構成の方探アンテナ       最新改定 2015.Oct.17 JH3FJA

 軍用のホーミングアンテナの中には無指向性アンテナ部を持たずにループアンテナの出力信号を簡単な受動RF回路だけで処理しカージオイド型指向特性を得る方式構成のものがあります。その原理、動作を考察したものです。

<姿・形>

 こんな感じ、ループ部分は1ターンが2本並列、ファラデーシールドはなく被覆電線で出来ています。
AT-249 外観 AT-249 外観 調整部

<内部回路>

 こんな感じ、「NORMAL」ポジションが8の字型指向性、「SENSE」ポジションがカージオイド指向性ですのが変成器の中点位置の接続が異なるだけですからこれがポイントであることが分かります。
内部回路

<ループアンテナの誘起電圧>

 ちょっと基本に戻り単一ループの誘起電圧を考察してみますと以下の式のようになります。 今、DFアンテナでの使い方はこの図のθを変化させ出力を見る(聞く)形態になります。 縦辺 aa'、縦辺 bb'の2辺の誘起電圧は行路長がループのスパン s の中央位置を基準として各1/2×s×cosθ 異なりますので位相もその分異なり、それらのベクトル的な合計がループアンテナの出力に得られます。
アンテナマウントスタイル

<NORMALポジションでの各部信号>

 A図において、ELはループの構造的な左辺で誘起する電圧、ERは同様に右辺で誘起する電圧です。左辺は変成器T1の2次側を見た抵抗端に対応します。なお、変成器T1の2次側リアクタンス値はRの抵抗値に比べ十分大きく採ってあります。
 B図 と C図は、A図のアンテナの向き(構造左辺が電波到来側)に対応した各部電圧のベクトルです。 変成器T1の2次側に得られる電圧 ES は EL と −ER とのベクトル和です。 ELとERとの位相差は上で導出した傾斜角(θ)とループスパン長(s)による行路差により生ずるものですが 30degは飽くまで説明上の例です。
 C図では、変成器T1の2次側電圧 Ei と 抵抗両端電圧 Er の合成がESであることを示していますが、C図はミクロに見ればという表現です。
 D図は、A図ミラー配置したもので、左方にループ構造右辺(マルR)が、右方にループ構造左辺(マルL)が位置するケースです。
 E図 と F図は、D図のアンテナの向き(構造右辺が電波到来側)に対応した各部電圧のベクトルです。 変成器T1の2次側に得られる電圧 ES' は EL と −ER とのベクトル和です。 ELとERとの位相差はB図とは反対でELが位相遅れ側です。
 F図では、変成器T1の2次側電圧 Ei' と 抵抗両端電圧 Er' の合成がES'であることを示しています。

 以上より この回路の「NORMAL」ポジションでの8の字指向性の2つの強信号方位では、振幅は同じで位相が180deg異なる出力が得られることが分かります。 が、通常の受信では位相までは見えない(聞こえない)ので1方位特定に供することは出来ません。
NORMALポジションでの信号ベクトル

<SENSEポジションでの各部信号>

 下記のA図は モードスイッチをSENCEポジションにおいた状態(変成器一次側中点抵抗Rの非接地側に接続)での等価回路です。ループアンテナの縦辺、共振コンデンサ、変成器一次側でのセンタタップを境目とした巻線間の誘導結合を、それぞれ配慮し分離構成した形態です。
 B図 は、構造左辺(マルL)を電波到来側に配置したときR両端の電圧ベクトル、C図は構造左辺(マルR)を電波到来側に配置した電圧ベクトルです。 両辺からの誘起電圧を源にRに流れる電流を合成し電圧変換する形態になるので両辺の位相関係は構造2辺の位置を反映した位相関係になるものの位相差は小さく合成位相(E0)は同じになります。 この様子はあたかもループスパン(s)の中央線上においた垂直無指向性アンテナでの誘起電圧位相と同じであるわけです。
 D図 は、構造左辺(マルL)を電波到来側に配置したときの変成器T1の2次側電圧Erとの最終的な出力合成を示します。両振幅が同方向ベクトルとなり加算的な合成となります。
 E図 は、構造右辺(マルR)を電波到来側に配置したときの変成器T1の2次側電圧Er'は反対位相のベクトルとなり減算的な合成となり出力振幅は小さくなります。

SENSEポジションでの信号ベクトル

 以上より この回路の「SENSE」ポジションでは擬似的な無指向性アンテナ応答の信号を作り1方位特定可能な指向特性を作り出しています。

END