陸軍 操縦訓練無線機 アンテナ出力系の考察       最新改定 2017.Aug.16 JH3FJA

 Face Book のグループ 旧日本軍無線機etc. に陸軍 操縦訓練無線機の紹介がありました。 九三式中間練習機(赤とんぼ)に搭載の無線機ですが 実際は受信機部だけが機体に積まれ訓練者単独飛行において地上からの指示を受ける受令装置形態で使われたそうです。
 この「操縦訓練無線機」には幾つか興味の沸く点がありました。 送信機ではハイインピーダンス出力のままアンテナをつなぐシンプルな終段出力回路、受信機では(他励)クエンチング発振電圧重畳+B電圧の超再生検波前段のRF増幅回路への印加です。 後者は奥が深そうなので別途とし ここでは前者を取り上げています。

姿1 姿2
姿1
 送信機内部です。 3本のUY-807Aで構成されています。 小さい方のコンパートメントが RF発振段で自励発振のVFO、 ハートレー回路です。 大きい方のコンパートメントはRF出力段とAM変調回路です。

 左の写真は 大きい方コンパートメントの近接で もっとも目立つローラインダクタがRF出力段のプレート負荷です。 ローラインダクタ部にスプリング保持で亀の子で乗った部分は、ローラ駆動で動いた摺動子のリニアな位置を 低ピッチのスパイラル溝の円筒カムにより軸回転角に変換し操作面に表示するメカです。

 下図が送信機部の回路図です。 発振段・出力段ともにグリッドラインに直列に入ったRFチョークは、UY-807Aの入力容量に対する位相補償で動作の安定度を高めてます。
操縦訓練無線機送信機部 回路図


<終段タンクと可変インダクタ>

 見かけ 回路図では終段のプレート負荷はLCタンク回路にはなっておらず可変インダクタだけが見えていますが、UY-807Aの電極間容量(球単体で7PF、シャーシ沈みマウント状態では9PFほど)、可変インダクタコイルのシャーシとのストレ容量(6PFほど)、配線のストレ容量(2PFほど)によりLC並列共振回路を形成させています。
 共振周波数でこのことを確認してみると、可変インダクタ単体は、ボビン外径 37mm、巻数 8.3回、巻ピッチ 6mm、線材 Φ0.8mm銅 であり、結果、インダクタンス=1.69uH、RF抵抗=0.52オーム、パラレルストレ容量=0.36PF、無負荷Q=616 (周波数依存のものは すべて@30MHz)、インダクタ単体の自己共振周波数=109.7MHz となり 、ストレ容量要素の合計17.36PF(=9+6+2+0.36) と 最大インダクタンスでの共振周波数は 29.4MHzとなり 機器仕様の下限周波数30Mcを満足します。 また、上限60Mcへの同調は可変インダクタが 0.4uHの位置となります。
 この可変インダクタはローラコイルの回転による摺動子の位置によらず 全コイル巻線が面積広めのシャーシと近い距離で対峙させてあり インダクタンス値によらず 一定のストレイ容量が維持されてます。

<空中線の特性>

 上述の終段回路からも判断できるようアンテナ端子でみた出力インピーダンスは高く 半波長あるいはその整数倍のエレメントの端から給電する電圧給電スタイルを採ることになります。 実験可能な50MHzでの当該アンテナ特性を検討した結果が以下の通りです。
 地上の机上 あるいは 機体搭載の送信機設置を想定し  (1)机上送信機部に垂直ワイヤアンテナ (2)机上送信機部にL型形態ワイヤアンテナ (3)機体搭載送信機にL型形態ワイヤアンテナ (4)機体搭載送信機に垂直ワイヤアンテナ の4ケースです。

(1) 地上机上設置/垂直アンテナ
電流振幅分布
 筐体3面の角部近くが給電位置(大地から1.2m高さ)、青い丸が回路図で「空結」と書かれたリアクタンス補償用バリコンで、アンテナシミュレーションにおいては このバリコンを含めアンテナとして扱っています。

 アンテナは半波長、アンテナエレメントのワイヤは 他のケースを含め Φ2mm、裸銅線 です。

 赤線が電流振幅分布を示します。

 (2)のL型アンテナのケースを含め地上設置なので大地の反射影響を含んだ計算結果です。

インピーダンス特性
 50MHzでのアンテナインピーダンスは、1494+j0.28 オームで 、リアクタンス補償のバリコン容量は9.1PFです。

 下左図: 垂直指向特性です。 対航空機用途ですから天頂方向のヌルは不都合な要素となります。

 下右図: 水平指向特性です。 全周一様な特性です。

垂直指向性 水平指向性

(2) 地上机上設置/L型アンテナ
電流振幅分布
 赤線が電流振幅分布を示します。

インピーダンス特性
  50MHzでのアンテナインピーダンスは、1641+j0.59オーム 、リアクタンス補償のバリコンは16.4PFです。

 下左図: 垂直指向特性です。 水平張部があることで天頂方向までカバーできます。

 下右図: 水平指向特性です。 アンテナエレメント末端方向(X軸+側)で少しゲインが落ちていますが 実用上は問題ないと思われます。
垂直指向性 水平指向性

(3) 航空機搭載/L型アンテナ
電流振幅分布
 このL型形態は コックピットから複葉主翼の上側にワイヤを立ち上げ 更に垂直尾翼天端部に索でワイヤを引っ張った成状です。

 機体は木製ですので自由空間条件としています。

 赤線が電流振幅分布を示します。

インピーダンス特性
  50MHzでのアンテナインピーダンスは、1729+j2.16オーム、リアクタンス補償のバリコンは11.9PFです。

 下左図: 垂直指向特性です。 一様な特性です。

 下右図: 水平指向特性です。 コックピットからみて主翼端方向に比べ エンジン方向と尾翼方向でゲインが落ちますが実用性はあると思われます。

垂直指向性 水平指向性


(4) 航空機搭載/垂直アンテナ
電流振幅分布
 赤とんぼの機体胴部に 垂直3mの竿竹は立てられないので架空の想定となりますが、結果は こんな感じです。

 機体は木製ですので自由空間条件としています。

インピーダンス特性
 50MHzでのアンテナインピーダンスは、1494−j0.26オーム 、リアクタンス補償のバリコンは 9.9PFです。

 下左図: 垂直指向特性です。 対地上通信用途ですから 機体Z軸方向(天頂軸)+−のヌルは不都合な要素となります。

 下右図: 水平指向特性です。 全周一様な特性です。

垂直指向性 水平指向性
END