共通辺を持つ矩形反対巻コイル      最新改定 2017.Sept.16 JH3FJA

 横浜旧軍無線通信資料館掲示板 に今まで見たこともない不思議な形状のコイルが使われた送信機が紹介されていました。 それは 旧日本陸軍のAM送信機の可変周波数発振段のものでバリコンとともにハートレー発振回路のタンクを構成しているLなのです。
 反対巻きの対コイルでは8の字巻きコイルがありますが 本品は8の字巻きでの軽い結合の共通辺(交差近傍部)ではなく直流的にも共通辺なのです。
 身近に矩形断面の帯板コイルを扱える電磁界シミュレータがないので ワイヤモデルモーメント法のアンテナシミュレータを使い 一体何を意図してこのような不思議な構造を採ったのか探ってみたものです。

外観姿1 外観姿2

<結果>

 この形態のものの適用理由は良く分らない と言うのが結論です。

1.ワイヤモデル化
2.電流振幅・位相の分布
3.周波数対リアクタンス特性
4.温度影響の推定
5.近傍磁界と遠方電磁界



1. ワイヤモデル化

矩形反対巻コイル 矩形シングルコイル(比較用)
矩形反対巻コイル ワイヤモデル シングルコイル ワイヤモデル
矩形反対巻コイル

 外周長辺長 58mm
 短辺長 46mm
 高さ 48mm、巻きピッチ 12mm
 線材 Φ2mm銅線

矩形シングルコイルは反対巻きコイルの半分

2. 電流振幅・位相の分布

 電流数値は100W入力したものです。部位の相対比較用と見てください。
 当たり前ですが 共通辺の電流 対 他辺の電流 は 2:1、電流の周回方向が逆ですから位相は180度異なってます。
電流振幅の分布 電流振幅の位相

3. 周波数対リアクタンス特性

電流振幅の分布
リアクタンス変化(赤い線)は周波数に対し直線、ちゃんとインダクタとして動作してます。

4. 温度影響の推定

 温度変化がもたらす熱膨張・収縮によるリアクタンス変化に着目、コイルの物理寸法(全辺)を変化させ眺めてみたものです。 +変形は膨張変化、−変形は収縮変化を意味します。 共振容量は25MHzに対してのものです。

矩形反対巻コイル 矩形シングルコイル
変形量 インピーダンス
(リアクタンス変動率)
共振容量 インピーダンス
(リアクタンス変動率)
共振容量
基準 0.11+j61.7
( 0% )
103.2 PF 0.15+j93
( 0% )
68.49 PF
+1% 0.11+j62.3
( 0.972% )
102.2 PF 0.15+93.9
( 0.968% )
67.79 PF
+2% 0.11+j62.9
( 1.944% )
101.2 PF 0.15+94.9
( 2.04% )
67.11 PF
−1% 0.11+j61.0
( -1.135% )
104.3 PF 0.15+92.0
( -1.075% )
69.19 PF
−2% 0.11+j60.4
( -2.107% )
105.4 PF 0.15+91.1
( -2.043% )
69.92 PF


5. 近傍磁界と遠方電磁界

 矩形反対巻コイルの短辺中央(Y軸値23mm)で切ったXZ軸面の磁界強度の分布です(シングルコイルも同じ切り口位置)。 切断面で見た面積の違いがもたらす違い程度でコイル外側での磁界強度の分布もそう大きな違いはありません。

矩形反対巻コイル矩形シングルコイル
磁界フィールド 矩形シングルコイル 磁界フィールド

 遠方界での輻射ゲインで特徴がないか見てみると、(上述の通り)近傍磁界強度が低いので電磁界の輻射量も小さくシングルコイルのそれに比べ 垂直面では4dBほど低い方向があり、水平面では4〜10dB ほど低くなっています。 ただし、この遠方界の性質が現れる距離はλ/2π(今は25MHzだから1.9m程)以遠であるから 送信機機内のコイル周辺配置上のメリットが得られると言うものではありません。

矩形反対巻コイル、垂直平面矩形シングルコイル、垂直平面
遠方電磁界 垂直面 遠方電磁界 垂直面

矩形反対巻コイル、水平平面矩形シングルコイル、水平平面
電流振幅の位相 水平面 電流振幅の位相 水平面


END