1.SPICEの伝送線路関連コンポーネント | |
2.コモンモードループを扱う | |
3.線路途中のノーマルモード流合を扱う |
現在SPICE系の電子回路シミュレータには無損失伝送線路モデルと 損失まで扱えるモデルの2種類の伝送線路コンポーネント(機能演算モジュール)が用意されています。 LTspice(SPICEと同類)においてのコンポーネント名は前者が TLINE ( Ideal Lossless Transmission Line )で特性インピーダンスと遅延時間の2項目を、後者が LTLINE( Lossy Transmission Line )で分布定数モデルの4定数(往復線路インダクタンス(L)、線間キャパシタンス(C)、往復線路抵抗(R)、線間コンダクタンス(G))と伝送線路長さを設定することで他の回路素子と同じ感覚で伝送線路を扱うことができます。 下図はLTspiceにおける2つのシンボル、右のLTLINEでは距離伝搬損失まで扱うので抵抗イメージの ギザギザ があります。 |
TLINE 回路シンボル |
LTLINE 回路シンボル |
左図は TLINEコンポーネントによる伝送線路の記述例です。 標準的な50オーム同軸ケーブル(速度係数0.67)を10m長、信号周波数は7MHz、よく分かるよう周波数特性を持った不整合負荷(100PFと50オームの直列)にしてあります。 青・・・受端の抵抗端でみた伝送特性 赤・・・送端で見た反射を含む特性 いずれもdBは信号源電圧信号レベルとの比です。 |
LTLINEコンポーネントによる伝送線路モデルの記述例です。 標準的な50オーム同軸ケーブル(速度係数0.67)を10m長、信号周波数は7MHz、よく分かるよう周波数特性を持った不整合負荷(100PFと50オームの直列)にしてあります。 青・・・受端の抵抗端でみた伝送特性 赤・・・送端で見た反射を含む特性 いずれもdBは信号源電圧信号レベルとの比です。 |
TLINEやLTLINEの内部演算について語った記事は少ないようで この図が一番詳しいようです。 左右対照の構成ですが左を送端、右を受端と呼びます。 送端の端子P1の電圧をV1、同端子P2の電圧をV2、受端の端子P3の電圧をV3、同端子P4の電圧をV4とします。 送端電圧の変化は振幅的には受端端子の電圧差 (V1−V2)、時間軸的にはこの電圧差の設定遅延時間分遅れたものです。 また 送端電流の変化は振幅的には送端端子P1に流れ込んだ電流 (V1−V2)/Z0、 時間軸的にはこの電流の設定遅延時間分遅れたものが出力されます。 受端から送端に向かう反射方向の演算も上述進行方向と同様に 電圧は(V3−V4)、電流は(V3−V4)/Z0の遅延時間分遅れたものが受端へと出力されます。 |
TLINEやLTLINEを数多く従属接続することでかなりの規模の伝送線路モデルは描けるのですが (上述の)コンポーネントの演算構成からもわかるように 線路のコモンモード電流パスは縁切りされた格好になるのでこれらだけでは扱えません。 |
ちょっとゴリ押しですが 「コモンモード電流のパスも大地やつながる構造物と同軸外被の外周側で構成された伝送路であり 両伝送路道中は独立的に考えてもそう無茶ではない」 との考え方で 伝送線路に重畳的に流れるコモンモード電流のパスをもう1つ TLINE または LTLINE を起用して表現します。 ノーマルモード信号の一巡パスとコモンモード信号の一巡パスを重ね合わせ的に眺められるよう記述するのです。 両コンポーネントは電子回路的にいえば 入力端・出力端はフローティング、入出力間は絶縁ですので伝送路出入口での電圧・電流の重畳を扱うことが出来ます。 |
左図において上側の破線囲みが同軸芯線のイメージ、下側の破線囲みが同軸外被のイメージです。 この伝送線路モデルの同軸は芯線と対峙する外被内側にはノーマルモード電流が流れ、大地や構造物と対峙する外被外側にはコモンモード電流が相互に干渉することなく独立的に流れるというものです。 以下に アンテナと給電同軸を取り巻く場面において ありそうなスタイルの課題考察を想定し このモデルを使った例を示します。 |
これを元回路と呼びます。 なお 右端のE1というコンポーネントは 電圧差観察用の差動入力アンプで 入力抵抗無限大・出力電圧ドライブ能力ほぼ無限大・電圧増幅度任意設定可能 というものです。 |
コモンモード電圧を見てます。 黄緑色・・ノード006、2段積み線路モデルの受端側外被の電圧 青色・・ノード005、2段積み線路モデルの送端側外被の電圧 |
コモンモード電流を見てます。 黄緑色・・2段積み線路モデルの外被外側(線路T2)を流れるコモンモード電流 青色・・抵抗Rr0を流れるコモンモード電流 |
受端の不平衡・平衡接続界面にコモンモードチョーク(10uH、結合度0.99)を入れた回路です。 これを改善回路と呼びます。 |
改善回路のコモンモード電圧を見ています。 黄緑色・・ノードn008、2段積み線路モデルの受端側外被の電圧 青色・・ノードn006、2段積み線路モデルの送端側外被の電圧 |
改善回路のコモンモード電流を見ています。 黄緑色・・2段積み線路モデルの外被外側(線路T2)を流れるコモンモード電流 青色・・抵抗Rr0を流れるコモンモード電流 |
これを元回路と呼びます。 |
コモンモード電圧および同電流を見ています。 黄緑色・・ノードn003、ノーマルモード信号電圧 青色・・ノードn006、2段積み線路モデルの受端側外被の電圧 赤色・・2段積み線路モデルT2のコモンモード側外被の電流 |
受端にコモンモードチョーク(20uH、結合度0.99)を入れた回路です。 これを改善回路Aと呼びます。 |
改善回路Aのコモンモードチョークを経たノーマルモード電圧・コモンモード電圧 および コモンモード電流を見ています。 黄緑色・・ノードn003、ノーマルモード信号電圧 青色・・コモンモードチョークを経たコモンモード電圧 赤色・・2段積み線路モデルT2のコモンモード側外被の電流 |
送端にコモンモードチョーク(20uH、結合度0.99)を入れた回路です。 これを改善回路Bと呼びます。 |
改善回路Bのノーマルモード電圧・コモンモード電圧 および コモンモード電流を見ています。 黄緑色・・ノードn003、ノーマルモード信号電圧 青色・・ノードn008コモンモード電圧 赤色・・2段積み線路モデルT2のコモンモード側外被の電流 |
同軸ケーブルの場合ごく低い周波数は別として たとえ外被に近接した電磁界からの影響により僅かの電流が誘起したとしても外被と芯線との間の相互インダクタンスで一様化されノーマルモード電圧になって現れることはありませんが 伝送線路を含む回路の考察においては外乱として有用で シミュレーション上の伝送線路特性を乱すことなく注入・流合できる方法は役立ちます。 |
M結合で同軸外被に信号注入します。 外被だけに結合用のインダクタンスを設けると伝送路の特性が乱れるので2巻線コモンモードチョークに第3の巻線を設け これに電流で印加します。 この時2巻線コモンモードチョークの外被(相当)側だけにM結合します。 現物のトリファイラ巻トロイダルコイルではこのような結合関係はできませんが回路シミュレーションモデル上は各コイル間の個別結合度指定することで出来てしまいます。 |
下側の破線で囲んだ部分がノーマルモード信号流合部です。 |
付加流合部なし と 同部あり の受端ノーマルモード電圧を見ています。 青色・・ノードn004、付加流合部なしの受端ノーマルモード電圧 赤色・・ノードn010、付加流合部あり の受端ノーマルモード電圧 ありでは注入した40MHz信号でビートを起しているのが見えます。 |
付加流合部なし での受端ノーマルモード電圧の周波数スペクトルを見ています。 青色・・ノードn004、付加流合部なしの受端ノーマルモード電圧 |
付加流合部あり、外部信号注入での受端ノーマルモード電圧の周波数スペクトルを見ています。 赤色・・ノードn010、付加流合部あり の受端ノーマルモード電圧 40MHz注入成分が付加されています。 |