GKアンプ入力容量補償回路の考察                 最新改定 2020.May.26 JH3FJA

1.まえがき 2.真空管GKアンプの入力回路 3.抵抗負荷への並列容量の影響 4.色々な補償回路の方式 5.参考資料

1.まえがき

 電極間容量が大き目の電力真空管によるGKアンプにおける入力容量補償回路について考察したものです。
 JA0VI局がFaceBook真空管無線機グループに投稿されたカソード接地リニアアンプのグリッドドライブシャント抵抗を200オームに採ると電極間容量80PF程によってドライブ側からみた整合が大きく崩れるとのもので、エキサイタ送信機から1:4トランスを経て昇圧するも高い周波数側で必要グリッド電圧に到達できないとの課題です。

2.真空管GKアンプの入力回路

 回路構成としては 図1のようにシンプルで 信号源インピーダンス50オームのドライブ要素を1:4トランスで受け200オームシャント抵抗で電圧変換、その際に電極間や配線の持つ静電容量がドライブ側との整合を乱す要素です。

図1 対象回路構成

 


3.抵抗負荷への並列容量の影響

 RとCの並列から成る負荷に対する整合状態(負荷抵抗が信号源インピーダンスに等しい)からのズレ(反射の増大)は 周波数に依存し変化するCの容量性リアクタンスに流れる電流の変化で生じます。 この電流は抵抗側の電流に比べ90deg進んだ位相です。
 抵抗負荷に並列形態で付加された静電容量が信号源と抵抗負荷との間の整合状態への影響程度を診てみます。 左側 図2 は信号源インピーダンス/負荷抵抗200オームのケース、右側 図3 は信号源インピーダンス/負荷抵抗50オームのケースです。
整合維持を SWR 1.5、S11でみて −14dBを上まわらない範囲とするならば、R/Xcが0.4以下に維持しておくことが目安になります。 Rは抵抗負荷の抵抗値、Xcは抵抗負荷と並列にある静電容量の当該周波数におけるリアクタンス値です。

図2 信号源インピーダンス200オーム/負荷抵抗200オーム 図3 信号源インピーダンス50オーム/負荷抵抗50オーム

 RF回路における整合の程度は リターンロス(Return Loss:不整合減衰量)や VSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比) で表されます。 リターンロスはSパラメータにおけるS11でもあり ここでは回路シミュレータで得られるパラメータ名からS11と呼びます。 整合問題の考察で常用する代表的なSWR値のS11および反射損失分を除く通過電力、到達先の終端でみたシャント電圧の割合は次の表の通りです。

   Return Loss = 20log10(VSWR+1/VSWR-1)   (dB)  

VSWR S11
Return Loss
有効な通過電力 終端シャント電圧 備考
1.02 -40 dB 100 % 100 %
1.3 -18 dB 98.4 % 99 %
1.5 -14 dB 96.8 % 98.4 %
2 -9.5 dB88.8 % 93.8 %
3 -6 dB74.9 % 86.5 %
5.85 -3 dB50 % 71 %

4.色々な補償回路の方式

(1)並列インダクタンスによる補償

 電極間容量に並列にインダクタンスを入れ並列共振により大きなインピーダンスとし影響を軽減します。シャント抵抗により共振はダンプされはしますが補償周波数範囲は狭く モノバンドのアンプでもない限りハムバンドに対応したインダクタに切り替える必要が生じます。


図4 並列インダクタンスによる補償

R20 : シャント抵抗
Cg : 電極間容量
Lc : 補償インダクタンス

Lc、Cgの共振周波数を目的周波数範囲の中央に採るよう設計する

 本方式では寄生インダクタンスの大きなホーロー抵抗をシャントに起用する場合でも 図5 のように、これを補償インダクタンスの一部に充てることができます。 とはいえ2つのコイルは並列接続での目減り分補償インダクタンスは大き目になってしまうので M結合(加極性)でインダクタタンスを稼ぐなど ひと工夫が要ります。
   参考データ : ホーロー抵抗の周波数対インピーダンス特性 (群馬大学アナログナレッジより)


図5 並列インダクタンスによる補償
  (シャント抵抗寄生インダクタも利用)

R20 : シャント抵抗
Lr20 : シャント抵抗の寄生インダクタンス
Cg : 電極間容量
Lc : 補償インダクタンス

Lc、Lr20、Cgの共振周波数を目的周波数範囲の中央に採るよう設計する

(2)パイ型フィルタ2C点利用

 パイ型ローパスフィルタの2段以上の構成において中間部の2C点(勝手に付けた呼称:パイ1段を2つ従属接続したときに初段の出力と次段の入力キャパシタンスで2倍の静電容量になる点)に陽にコンデンサ部品を置かず電極間容量を代替させフィルタとしての遮断周波数は目的周波数範囲より上に採り整合回路として使う方法です。
 図6 はシャント端200オーム、2C点 80PF、ローパスフィルタ特性としてのコーナ周波数をインダクタ定数を選び33MHzと26MHzに採った2ケースです。

図6 パイ型2段 2C点利用

R20 : シャント抵抗
Cg : 電極間容量
L1、L3 : パイ型フィルタ直列インダクタ
C1、C3 : パイ型フィルタ並列キャパシタ (=Cg/2)

フィルタとしての設計をC1、C3の値ありきで行う

周波数範囲を広げようとコーナ周波数を高めると S11は目減り

<パイ型の多段化>

 2C点が得られる最小の2段構成から段数を増やして行くと S11を低く保てる周波数範囲をより広く採ることが可能になります。
 図7 はシャント端200オーム、2C点 80PF、ローパスフィルタ特性としてのコーナ周波数をインダクタ定数を選び33MHzと26MHzに採った2ケースです。
 図8 は「S11重視でチューニング」したもので、フィルタ用途では通過域の出力変動は嫌われますが 整合回路としての出力(2C点)電圧のある程度の変動(ここでは+−2dB)を許容すると 低いS11の周波数範囲を若干広く採れるようになります。


図7 パイ型3段 2C点利用

R20 : シャント抵抗
Cg : 電極間容量
L1、L2、L3 : パイ型フィルタ直列インダクタ
C1、C3 : パイ型フィルタ並列キャパシタ (=Cg/2)

C2 : パイ型フィルタ並列キャパシタ (=Cg)

フィルタとしての設計をC1、C2、C3の値ありきで行う

周波数範囲を広げようとコーナ周波数を高めると S11は目減り


図8 パイ型3段 2C点利用(S11重視調整)

図7の状態からS11重視で各素子定数を調整
L1=L2=L3 の条件を外すと改善も出来得るが調整は複雑化

(3)特許からミューチャルインダクタンス利用の回路

 特許検索で パッシブ回路網の整合回路 を探してみると おもしろそうなのがありました。

  インピーダンス変成回路 (出願番号2017-086337、公開番号2018-186372)

 図9 に当該回路を、図10 に負荷との並列コンデンサ40PFでの結果を、図11 に負荷との並列コンデンサ80PFでの結果を 示します。 基本はL型2段のインピーダンス整合回路ですが 3つの構成インダクタに結合を持たせ 特にシャント位置のLC直列共振がもたらす位相特性が広い低S11周波数範囲の形成に寄与しています。
 HF帯での実製作はトロイダルコアへのバイファイラ巻きの上に共振用の1線を巻き共振用コンデンサを可変とし巻数調整することで出来そうです。

図9 当該特許回路

 端子114a:入力端、114b:出力端
 コイル135、コンデンサ133 :直列共振により減衰極を形成
 コイル132、134、135は結合を有する


図10 並列キャパシタンス 40PF

0.1から30MHzの範囲で S11、最低でも−12dBは得られる


図11 並列キャパシタンス 80PF

0.1から30MHzの範囲で S11、最低でも−5dBは得られる


5.参考資料

5CX1500A Data Sheet

END



改定来歴:  2020.May.26 作成