コイルのQ測定 トラップ法                 最新改定 2021.May.01 JH3FJA

1.まえがき 2.計測原理 3.計測方法 4.参考

1.まえがき

 コイルのQ測定に関しQメータによる方法以外の一つとして「トラップ法」(正式な名称はないので勝手に呼称)による計測を説明したものです。 トラップ法は供試コイルのインダクタンス・損失抵抗と計測手段としてのキャパシタで直列共振回路を形成し共振固有値においてインダクタンス成分とキャパシタンス成分が相殺される事でQ値の原点である損失抵抗分だけを扱えるようにし その大きさを計測するものです。 Qメータが供試コイルとの並列共振状態の大きなインピーダンスを高入力抵抗で扱う専用的な機材であることに対し、トラップ法による計測は身近な汎用計測器の組み合わせで手軽に行うことが可能です。

2.計測原理

 図1 原理説明(1) は左下1V,1MHzの信号源は共通になっていますが3つの回路状態を表しています。
  一番上は信号源インピーダンス50オームの先に終端抵抗50オームがあるだけ、終端抵抗の両端電圧は1V信号源の半分の電圧です。
 二番目の回路状態は一番目の回路に供試体コイルを含むLCR直列共振回路を終端に並列形態で付加したものでRは供試コイルの損失成分です。ここで供試コイルのインダクタンスLと直列に接続された計測用のキャパシタCの共振固有値が信号源周波数に一致した時、LとCの各リアクタンスは相殺され供試コイルの損失抵抗が終端抵抗に並列に付加され終端抵抗の両端電圧が下がり最小電圧値となります。これは三番目(一番下)の回路のようにLやCが登場しない単純な抵抗回路網としての電圧変化から損失抵抗が算出できるということです。
図1 原理説明(1)


供試回路を繋がない状態






供試回路を繋いだ状態
 LCR直列共振回路が終端と並列に入った






供試回路を繋いだ状態
 共振点では損失抵抗分だけが残る

 以上で原理のイメージは掴めたと思いますので 次にQ値の算出式を説明します。
図2 原理説明(2)
 図2 原理説明(2) の上側が供試回路を繋がない状態、下側が供試共振回路を繋ぎ かつ信号源の周波数を供試共振回路の共振固有値に一致させた状態です。

V1は信号源と終端 2つのRによる分圧で 次のようになります。
 

V2は信号源のRと 損失抵抗Zと終端Rの並列 との分圧で次のようになります。
 

 ここで損失抵抗Zが加わったことによる終端抵抗R端で見た計測電圧 V1,V2 の変化率をαとします。 損失抵抗はエネルギを生みませんので常に V1>=V2 で αは 0〜1 の間の値です。
 
これを損失抵抗Zを求める式に変形し 次式が得られます。 2つの電圧値だけで損失抵抗が求まるのです。
 
損失抵抗値を使いQを求めるのはQの定義式に従うだけで次のように求まります。 この計測手法では供試コイルのインダクタンス値を別途 計測しておく必要があります。
 


3.計測方法

 計測は原理の通り 供試直列共振回路の非接続・接続状態での2つの終端電圧を測るだけですから 図3 計測スタイル の感じで行うことが出来ます。 他にもRF電圧計を見ながら損失抵抗値相当を可変抵抗器で置き代える置換法もあります。
図3 計測スタイル

スタイル1は SGとRF電圧計といった構成、

スタイル2は ネットアナ、トラッキングジェネレータとスペアナ、nanoVNAといった構成です。


 「信号源」は終端抵抗値と同じ出力インピーダンスの機材であれば50オーム、75オームといった低出力インピーダンスに限定されるものではありませんが、損失抵抗が付加された状態でも出力インピーダンスが維持できるドライブ能力は必要です。
 「電圧レベル計測機材」は終端抵抗の両端電圧を測る電圧計の入力インピーダンスは少なくとも終端抵抗値の100倍程度は確保が確実です。
 なお スタイル2では多くの機材がレベル観測での読取り単位がデシベルになっていますので 電圧値に戻さず供試共振回路を繋がない時と繋いだ時のデシベル値の差(マイナスなんぼかデシベル)Aを使いQを算出します。この時、電力系(パワーレベル)の読み値の場合は差を2倍したものをAとします。
   


4.参考

 本計測方法に関連して 幾つかの役立ちそうな事柄を掲げておきます。

<NanoVNA 振幅目盛のゲイン変更>

 スタイル2で NanoVNA を使う場合共振点でのディップ深さが小さ過ぎる場合、次の2つの操作を続けて行うことで表示目盛のゲインを変更できます。
 ステップ1 変更対象の選択
  トップメニュ:DISPLAY / 下位メニュ:TRACE / トレース選択:CH1 / BACK / BACK
  (結果 「CH1」の画面表示文字が反転表示になります)
 ステップ2 対象目盛の変更
  トップメニュ:DISPLAY / 下位メニュ:SCALE / トレース選択:SCALE/DIV / テンキー入力 / BACK / BACK
  (テンキー入力でのENTERは「×1」キーを押します)

<50オーム出力バッファ回路>

 テストオシレータなどちょっとした発振器に付加し出力インピーダンス50オームにするUSB電源で動く1石回路で100MHz程度まで動きます。ロームのちょっと昔のトランジスタですが余剰品がありますので差し上げることができます。

END


改定来歴:  2021.May.01 作成