結合共振回路による選択特性の検討       最新改定 2018.June.13 JH3FJA

 適度な通過帯域幅と帯域外減衰のスカート特性を持った中波放送バンド用のM結合共振回路を検討したものです。

(1) 参考特性

 結合同調回路の理論は古くに確立されたものがあり設計例も色々とあります(*1)。が、固定周波数や周波数変化幅の小さな用途での適用が多く中波放送帯のような広い周波数範囲に対してのものはあまり無いようなので取り上げたものです。 下図は参考目標とするスターのHiFiコイル(セット)BH-100の適用回路と特性カーブです。

 *1 例えば G.E.REVIEW October 1934 から Tuned Transformers (サイズ10MB)

(2) 結合インダクタンス対帯域特性

 このケースに限らず 基本的な特性知見を得るため信号源インピーダンス、負荷インピーダンスともに共振インピーダンスより十分に大きくとります。

 相互インダクタンス分は2つのコイル間の結合係数で表現することもできますが 結合成分のみの観測がやり難いので 相互インダクタンス分を単独のインダクタンスL3 で表現します。 以降L3を結合インダクタンスと呼びます。

 結合インダクタンスL3を変量とし、 1uHから 6uHまで1uHピッチで変化させ重畳表示させます。 なお、ここでのL1、L2の無負荷Qは170程度にしてあります。

 下図が結果です。 1uH・黄緑、2uH・青、3uH・赤、・ ・ ・ と左に連なります。 1uHでは結合が浅くまだ単峰特性を留めています。 以降結合が密になる順に双峰特性となり2山の周波数の隔たりも大きくなります。


 2山は、周波数の低い方が結合インダクタンス値により変化、他方周波数の高い方は変化しない挙動をしていますが、これは2つの異なる共振モードによるものです。  周波数の低い方は、C1、L1、L3からなる共振回路とC2、L2、L3からなる共振回路がL3を共通として部分2重重ねで共振、他方周波数の高い方は C1、L1、C2、L2 の直列(Lは倍、Cは半分)による共振です。 後者はL3に電流が流れないモードですのでL3のインダクタンス値変化でも共振周波数が動くことが無い訳です。

(3) 同調点移動にともなう帯域変化

 中波放送受信では受信対象周波数が3倍ものレンジになりますので本特性は気になるところです。

 同調コンデンサC1、C2の容量を変量にとり 5つの周波数での帯域特性を重畳します。

 下図が結果です。

 次の表は 上のグラフでの5つの周波数における2山の周波数間隔をピックアップしたものです。 離隔はL3のなせる業ではありますが この間隔は同調コンデンサ容量の影響を受け変化しますので一定にはなりません。

 周波数(nominal) 0.7 MHz 0.9 MHz 1.1MHz 1.3 MHz 1.5 MHz
 2山の間隔 12.1 KHz 14.3 KHz 14.9 KHz 15.5 KHz 16.6 KHz


(4) 同調点移動にともなう帯域変化の補償

 (3)に示す程度の変化でも気にする場合は補償を考える必要ありますが、冒頭に掲げたスターBH-100コイルセットの中点付コイルのCR並列回路は同調点移動にともなう帯域変化(変動)の補償を意図したもののようです。

 まずは 0.015uF と 500Kオーム から。

 結果です。 結合インダクタンスL3とC3で新たに「第3の固有値」が高い周波数側にノッチ状減衰の形態で生じています。 周波数は同調周波数に影響されないL3、C3の直列共振周波数そのものです。 下側に貼ったグラフはC3、R1なし のもので 両グラフを比較すると第3の固有値の影響力が診えます。

 下図は C3、R1を 0.02uF と 500Kオームとし 「第3の固有値」を同調範囲の低い側の外側に置いた結果です。
 下側に貼った表示周波数スパンを合わせた C3、R1なし のものです。

 R1の検討です。

 R1を変量にとり 1M、100K、10Kオームと変化させ重ね表示します。

 結果です。 第3の固有値周波数での減衰ノッチの深さは変わっていますが同調周波数の特性へのその影響はさほどありません。 1Mオームが黄緑、100Kオームが青、10Kオームが赤表示ですが 線が重なるほどに一致により最後の赤が見えています。

(5) 現実的な適用を考えると


 M結合結合共振回路の中波放送バンドでの帯域特性改善への適用を考えると 冒頭のスターのチューナ回路のように結合共振回路入出力界面でのインピーダンスが一定とみなせる対処を施すならば 今検討知見を踏まえ係る設計は可能だと思います。

 また アクティブデバイスによるバッファを設けない場合には この図のように( 出典はこれ )M結合部のみで結合する2つの同調回路に個別の同調機構を設け かつM結合度合を操作できるようにすれば現実性のある帯域特性を得ることは可能と思われます。


END

改定来歴:  2018.June.13 作成